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2005.11.11

経営者の自己欺瞞

リクルートの転職あっせんサイト経由で、7月に、ある精密機器メーカーの研究部門の偉い人から、転職のお誘いのメールを受け取った。その会社の募集要項の内容は私の専門とは明らかに分野が違っていたので、これはデータ検索のミスか何かで私は引っかかっただけで、何かの間違いだろう。そう思って無視していたら、さらに続けてメールがきて、どうやらちゃんと私の職務経歴データに目を通した上で連絡してきたらしい。どうしようかなと思っていると、さらに、今度は人事部の人からもメールが来た。

そこまで言ってくれるなら、取りあえず仕事の内容についてお話だけ聞かせて頂きましょうと返事を出し、実際にその会社に行き、あれこれと話をする。建前としては会社説明会であって面接ではなかったのだが、給与の話まで出た。そして一週間後、人事の人から「どうでしょうか、応募してみませんか」と返事の催促が来る。

さて、どうしたものか。パートで食いつなぐのも心細いし、ぜひ来てくれと望まれて迎えてくれるなら拒む理由はない。そう思って正式に応募した。

次は、単純な筆記試験。
そして、役員面接。

会った瞬間、採用の意思が全くないことは明らかだった。ああ、この会社はどういうつもりで求人活動をしているのだろうか。

実は、こういう事例はよくある。この会社は大量の人員削減をしている真っ最中で、本当は新規雇用などできない状況なのだ。大量の希望退職者を募っていることは新聞でも6月に報じていたし、IRで公式にも認めている。しかし不思議なことに経営者は対外的には求人中だというメッセージを送り続け、人事部や各部署の管理職に対しても求人活動をするように指示している。

私も、ある会社で管理職をやっていたときに、経営者が実際には新規雇用をする意思は全くないにもかかわらず求人活動を社内の各部署に指示しているのを見たことがある。新卒も中途も、すべて役員面接で不採用。挙句の果てに、役員は、「今日の予定の応募者は、どうせ不採用だ」と言い残して面接のスケジュールをすっぽかしてどこかに行ってしまい、私と人事部の人のふたりが後始末で、不採用が確定している応募者の面接をやる羽目になったことさえあった。会う気がないなら、面接の日程を組む前に落とすべきだ。実に馬鹿馬鹿しい。応募者も社員も大迷惑である。

会社が経済的な経営危機に瀕していて、人を採れない・減らさなければならない状況になったとき、経営者はその事実をなかなか認めない。そして、おもに社内向けに、ウソの採用計画を口走るようになる。「わが社はつぶれそうだから人は採れない」とは、絶対に認めない。「いい人が来れば採用するよ」と、言い張り続ける。

なぜそんなことをするかといえば、会社を立て直すためには、会社は今以上の仕事をしなければならず、そのためには今以上に人手が必要であり、もし人手を確保できないなら、会社の改革は極めて難しくなる、ということが自明だからだ。人を採れないと認めてしまうことは、会社再建には年月がかかり苦しい期間が長引くと認めることだ。人は誰しも、嫌なことを認めたがらない。とりわけ、認めたせいでもっと苦しい状況になる場合には絶対認めない。人は採れないと認めたら、社内に残っている有能な人物まで出て行ってしまう。だから、経営者は、ぎりぎりまで「いい人が来れば採用するよ」と言い張り続ける。

しかし経営者のいう「採用に値するいい人」とは、会社の負債を一夜にして一掃してくれて、しかも、経営者の立場は絶対に脅かさないという天使のような人である。いるわけがない。いたとしても、「つぶれかけた我が社」なんぞに応募するものか。その人物自身が我が社よりもはるかに立派で業績のいい企業の社長になれる。

人を減らしすぎ仕事が回らなくなっている状況で人が採れないというのは、会社にとってたいへんな危機である。それでも、そのとき、正社員の新規採用は完全にストップだとはっきり言ってくれれば、じゃあアルバイトや短期派遣、よその会社への外注を検討しましょうという方向に計画をシフトすることもできる。危機を危機として認識し、社内に、せめて管理職クラスについては、きちんとそれを伝えることができないなら、管理職たちは、今後の職務を遂行することはできない。

私がくだんの会社に初めて行ったとき、最初に私にメールを送ってきた研究部門の人は、かなり上機嫌だった。一方人事部の人は非常に低姿勢で、しかも、かなり落ち着きのない神経質な感じがした。何か採用の仕事が難しい問題を抱えているなという臭いをかなり強く漂わせていて、少し不思議だった。

後から思えば、おそらく、人事部の人は、本当は今年の採用はない。表向き応募はかけているけれど役員がことごとく落としているから。と、気がついていたのではないかと思う。なにしろ、10月になっても新卒者の募集をしていたくらいだ。

私の面接の日程を組むとき、「○日は新卒者の面接のため役員のスケジュールが・・・」という話を人事の人から聞いて、私は「おや?」を思ったものである。老舗の日本企業で、10月にまだ新卒者の枠が埋まっていないと? そのとき、私は、私が以前いた会社でも、夏に面接した新卒者を役員が全員不採用にして、採用活動が滅茶苦茶になったことを思い出した。その通り、本当は、新卒者採用など不可能な状況だったのだ。

私は、この会社から不採用通知を受け取ったことについては何も思うところはない。もともと、こちらからお願いしたわけでもないし、採用通知が来ても応諾したかどうか分からない。

ただ・・・ 振り回されている人事部の人が気の毒でならない。かつて私自身がそういう経験をしたのだから。そして、研究開発計画が頓挫しかねない状況に置かれている、私にメールをくれた人の心労に同情する。

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