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2005.08.24

させてないよ

儀礼的な敬語は、使い古されていくうちに最初の意味が失われてしまい、しばしばろくでもない意味になってしまうのだが、「させて頂く」という言葉もすっかり堕落してしまった。

「させて頂く」という日本語は、ちょっと複雑な構造をしていて、「させる」の主語はあなた(聞き手)であり、「いただく」の主語は私(話し手)である。

もともとの意味は、「あなたから特に許可してもらって/あなたから(光栄にも)命じてもらって、私は何々をする。ありがたいことでございます」という、非常に低姿勢な意味だったはずだと思う。

例えば、「勉強させて頂く」という日本語は、「あなたは私に対して勉強するようにしむけていて(命令する・機会を与える)、私は、そういう(ありがたい)状況を、手に入れている」というくらいの意味であり、つまり、「私は、勉強する機会を、あなたからもらっている」という感謝の気持ちを相手に述べている。

だが最近では、「させていただく」は、「お前さんが望もうが望むまいがオレはやりたいようにやるぜ!」と宣言するときに使われているようだ。

いや、実を言えば、それは以前からある自然な語法である。少し古いホームドラマなどでは、夫の狼藉にたまりかねた妻が荷物をまとめて「里に帰らせていただきます!」と宣言するようなシーンが、ある種の決まり文句のような形で使われていたように思う。これは、帰る許可を得てから「帰らせていただく」のではなく、乱暴な夫に対してもはや有無を言わせず、つまり何が何でも自分が帰ることを夫に認めさせるという意思表示である。

本来なら許可を得たあとで言うべき言葉を、許可を得る前にあえて言ってしまうのは、「あなたには、容認、黙認する以外に道はない」という宣言の意味を持つ。「もはやこれまで。あなたは、それを認めないわけにはいかない。」というのが、「里へ帰らせていただきます」の真意である。

書き手、話し手が本当にそういう意図をもって「させていただく」という言葉を使うなら、それはそれで全く問題ないと思う。だが、最近目に付く企業の告知文は、どうだろうか。いわく、「値上げさせていただきます」「中止させていただきます」「廃止させていただきます」・・・

あ、いや、誰もさせていませんよ。あなたが自主的に決め、相手のことなどお構いなしに実行しているだけ。値上げさせたのは私ではないのだから、「させて頂く」なんて表現で、値上げの責任をこっちにかぶせられてはたまらない。それは敬語ではない。丁寧な言い回しではあっても、実際には無礼な物言いなのだ。

そんな面倒な言い回しをしないで、すなおに「値上げします」「中止します」(=私が決めました)と言うのが正直でいいと思うけれど、それだとあからさま過ぎるから間接的な言葉にしたいというのであれば、「値上げすることになりました」「中止になりました」(=誰かが決めました)くらいの言い回しを使うといいのではないだろうか。

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