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2005.06.30

『ネギま!』英語版、第6巻

6月下旬に英語版『ネギま!』の6巻目が発売された。既に出版社が数ヶ月前に約束していたことだが、前任の翻訳者は降板になり、今回は日本人(あるいは日系人)が訳をしている。これで3人目。これで、ファンたちを長いこと怒らせてきた誤訳、「南のマスター」は、やっと「千のマスター」に訂正された。

第1巻の翻訳者は日本人だったので日本語の解釈には問題はなかったが、出版社は訳文の英語の雰囲気や質がマンガとあっていないと判断し、2巻目からは英語ネイティブに交代。しかし、2巻から5巻までの翻訳をしていた人は、日本語の原文の読解力に問題があり、カタカナで書かれた「サウザンド(1000の)」を「サザン(南の)」だと誤解したまま、ずっと翻訳し続けた。

いくら英語としては自然で絵の雰囲気に合う訳文を作れる人であったとしても、ストーリー上重大な人物、すなわち主人公の父親であり伝説的な魔法使いである人物の、魔法使いとしての称号を誤訳するというのは問題がある。和文英訳という作業の中でもカタカナ英語の英訳は、辞書に載っていない言葉であるがゆえに特に厄介である。しかしその点を割り引いて考えても、作品中にちゃんと称号の由来について説明があるうえ、1巻では正しく訳されているので言い訳はできない。

この誤訳は、英語圏のファンから何度も指摘されてきたのに、出版社は長期にわたって問題を放置していた。(他にも、日本語の読み間違いに起因する小さな誤訳があった)。このため数ヶ月前にあるファンのグループが出版社に強く抗議し、その結果、5巻の出版には間に合わなかったものの、6巻からは翻訳者を変更すること、そして既刊分については、新しい版では誤訳を訂正して出すことを出版社は約束した。

さて、その6巻目を数日前に入手した。日本語の長母音を、マクロン(母音のアルファベットの上につける横棒)であらわすなど、個人的には歓迎したい表記上の変更もある。5巻では「おねえちゃん」を "One-chan"と表記していて何のことやらと思ったが、今後は、"onēchan"になるはずだ。既刊分では翻訳不能として無視されていた「ぼうや」という呼び方(エバンジェリンが、ネギを呼ぶときの呼び方)は、6巻ではそのまま "bōya"と表記されている。

正確な訳に注意するようになったこと、そして日本語の表記に対する配慮を強めたことは、いいことだと思うのだが、呼び名以外の部分、会話で使われている語彙や口調にも変化がある。ノンネイティブな私には、それらの変化が読者にどのような印象を与えるか分からないが、登場人物の使う語彙まで変えてしまったのは、過剰補正だったかも知れない。確かに登場人物たちがお互いを呼ぶときの敬称をどう英訳するかについても、一貫性のなさを批判する声はあった。例えば、過去の翻訳では「あにき」は "big brother" と訳しておきながら、「あねさん」は、そのままローマ字にするだけなど、なんとなく翻訳の方針に統一性がなかったようにも思える。しかし、いったんそういう風に訳すと決めて出版してしまったものを、後の巻でこれを変えてしまうというのは、どうだろうか? 呼び方が変わると、互いの人間関係が変わってしまったような印象を受けないだろうか? 語彙を変えると登場人物の性格が変わったように見えないだろうか? "The Southern Master" という誤訳は、絶対に訂正すべきことだったと思うが、 "big brother" は、そう書いてしまったならそのままでよかったように思う。既刊の巻は新しく印刷するときに修正が入るはずだが、誤訳以外のこういう変化も修正して統一するのだろうか? 書店で立ち読みすることができないので、ちょっと気になる。

デルレイがマンガの英訳を出版するのは『ネギま!』が初めてのことらしいので、ある程度の試行錯誤は仕方ないとは思うし、原作もまだ連載中であり、現時点ではおぼろげにしか提示されていない伏線や設定の存在など、翻訳上厄介な問題があり、そういう不利な条件を乗り越えた上で他社の英訳よりも質のよい本を出しているのだから、あまり強い批判はしたくない。とはいえ、そろそろスタイルを安定させて欲しいなと思う。7巻目は9月末に発売される予定だ。今後に期待したい。

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