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2004.09.22

Graded Reader その2

昨日書いた話に引き続き、Penguin Readers と Oxford Bookworms から出ている Retold版の Pride and Prejudice について紹介しようと思う。

オリジナルの小説が出版されたのは1813年、つまり、約200年前である。日本語の場合は、明治時代と終戦後に大改造を受けているので、200年前の言葉というと現在とはかなり違ってしまっているが、英語はそれほど変化していないので、オリジナルを読むとしても現代英語の知識の範囲で何とかなる。英語の歴史においても、ある時期に文法や語彙が大きく変化したことがあり、それ以前の英語の文章は、現在の普通の英米人には読めないそうだ。

ところで、どこまで本当かは知らないが・・・

第二次世界大戦が終わったとき、ヨーロッパに進駐した米軍は、現地の民間企業からさまざまな軍需物資を買い入れた。そのとき、契約書には、「正しい英語で書類を書くこと」という注意書きが印刷してあり、これは、イギリスの会社にあてた書類にも形式的に挿入されていたらしい。

アメリカ人から「正しい英語を使え」と言われたイギリス人は、「現在の姿に堕落してしまう以前の本物の英語」で書類を作って米軍に送りつけ、以後、この失敬な但し書きはイギリス企業への書類からは削られた。

・・・のだそうである。ホントかね? Pride and Prejudice に登場するベネット氏が現代に生きていれば、そういう回りくどい当てこすりをやって愚か者をからかうかも知れないが、問題は米軍のほうである。ロンドンから送り付けられた中世英語の書類を見ても、それが英語であるということにさえ気が付かず、再度「正しい英語を使え」と通達を出しそうな気もするぞ。

閑話休題。現代英語の知識の範囲で何とかなるとはいうものの、やっぱり、ジェーン・オースチンの小説は難しい。初めて見てびっくりするのは、現代の普通の小説に比べてひとつの文が長いということである。今ならピリオドで切って別々の文にするようなものが、カンマやセミコロンで区切るだけで続けられている。見た目がそうだというだけで、基本的には、ただ前から順に読んでいけばいいので、第一印象から受けるほど難しいわけではないのだが、どこで区切っていいか分からなくなるような長い主語があったりすると、思わず鉛筆を手にとって文章の切れ目をページに書き込みたくなることもある。

ペンギンやオックスフォードから出ている Retold 版では、この「ひとつの長い文」を短い複数の文に切り分けることは避けていた。おそらくオリジナルの文体を尊重するためだと思う。原文を要約したり易しい単語に書き直した後でも、文体は維持されている。このため、語彙のレベルがそんなに高くない(せいぜい 2500 head words)わりには、英文としての難度は高い。面白いことに、語彙としてはペンギン版のほうが易しいものになっているはずだが、文章全体としてはオックスフォード版のほうが明らかに易しい。オックスフォード版は、オリジナルでは間接的にほのめかしていたことを、明確に説明するように書き換えたり単語を補ったりしているからだ。

例えば、近所に引っ越してきたビングリー氏をベネット氏が訪問し、それに対する返礼として今度はビングリー氏がベネット氏の家を訪問する場面で、オリジナルとペンギン版では、Mr Bingley returned Mr Bennet's visit となっているが、オックスフォード版では、"As politeness required, Mr Bingley come to visit Mr Bennet" と書き換えられていて、儀礼的な訪問であることを読者に明示している。

また、将来の遺産相続人であるコリンズ氏がビングリー家を訪問したとき、ビングリー夫人は、「いずれ我が家をこの人物に取られるのだ」と思っているので、コリンズ氏のお世辞を聞いても到底いい気持ちにはなれない。この場面は、このように書き換えられている:

オリジナル:
His commendation of everything would have touched Mrs Bennet's heart, but for the mortifying supposition of his viewing it all as his own future property.

ペンギン版:
His approval would have touched Mrs Bennet's heart, if she had not believed that he was viewing it all as his own future property.

オックスフォード版:
Mrs Bennet would normally have been delighted with such prise, but she could not help thinking that he was perhaps admiring it all as his future property.

ペンギン版は、おそらく 「but for +名詞」(もし~がなければ)という構文を避けるため if に置き換えたのだろうが、個人的には、かえってオリジナルより分かり難くなっているような気がする。

ペンギン版もオックスフォード版も、夫人が思い込んでいる疑念は that 以下に書いてあり、そこはほぼ同じ形である。だが、ペンギン版は、仮定法の解釈でちょっととまどう。「ベネット夫人は感心するはずだった。もし、(that以下)であると信じなかったのであれば。」 要するに、(that以下)であると思い込んでいるということだ。

一方、オックスフォード版は、仮定法ではなく直説法でベネット夫人の不信感を述べている。さらに、副詞 normally を追加することで、普段の反応ではないことを読者に示している(実際、夫人はお世辞は大好きである)。「ベネット夫人は、普通ならこういうほめ言葉を喜ぶはずだが、(that以下)なのだろうと思わずにはいられなかった。」 これは、単純に前から読んでいくだけで理解できる。

語彙の難しさと文章の難しさは、必ずしも一致しない。難しい単語がたくさん出てくる英語の科学雑誌は、単語は難しくても文章はそれほど難しくない。一方、文学作品は微妙な表現が使われているため、単語が易しくても文章が易しいとは限らない。ぼんやり読んでいると、重要な「ほのめかし」を読み落としてしまう。

今回取り上げた2冊の Pride and Prejudice については、両方読み比べてみると面白いと思う。どちらか一冊しか読まないということなら、ページ数がやや少なく文体も易しめのオックスフォード版(ただし、単語はこちらのほうが少し難しい)をお勧めしたいが、両方読んでみるなら、最初にペンギン版から読んで、次にオックスフォード版で自分の読み落としを発見するのも楽しい。

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