Onomatopoeia
日本語のマンガを英訳するときに問題になるもののひとつが、onomatopoeia すなわち擬音語と擬態語である。日曜に購入した NEGIMA では、巻末の編集者のコメントに、「全ての効果音に何らかの英訳を当てるという方針を取った」と書いてあり、確かにいろいろな工夫があった。主人公が呪文を唱えているところには、MMBL と書いてあったが、これはおそらく mumble(ぶつぶつ言う)の変形だろうと思う。英語は日本語ほど擬音語は多くないといわれているが、この mumble も、似たような意味の動詞 mutter や murmur も、擬音語である。
日本語では動詞に擬音語を追加して「くっくっと笑う」とか「くすくす笑う」というところだが、英語の場合には、chuckle とか giggle のように独立した動詞になっている。このふたつも擬音語である。「くっ」「ぐっ」という音に、反復動作を示す記号として -le が付いている。日本語では、動詞を補足するものとして「くすくすと、笑う」などのように書き加えているのに対し、英語ではいわば「くすくす、する」のように、動詞そのものになっているわけである。
(日本語の場合も、ひとかたまりの動詞になっている例があり、日本語の「(馬が)いななく」の「い」は、あの「ひひーん」という馬の鳴き声の擬音である。)
英語に擬音語が少ないと言われている理由の一つに、例えば laugh(笑う)のように、もともとは擬音語だが、長い年月の末に綴りと発音が変わってしまったせいで今ではそうは見えない、というのがある。大昔の laugh は、例えば hliehhan などのように書いていて、発音はつづりの通りだったという話だ。これが「はははっ」と笑っていることは、字を見ただけで想像できる。それがいつの間にか変わってしまった。確かに、日本語に比べれば英語の擬音語や擬態語は少ないようだが、語源不詳とされている動詞のいくつかは、擬音語や擬態語だと思う。
数の多い少ないもさることながら、日本語の場合は、過去に作られた擬音語を使うだけではなく、今、文章を作っているその場で擬音語を適当に作って使うということが珍しくない。日本語には比喩を意味する「・・・と」という便利な助詞があるので、何でも適当に作って「・・・と、笑う」と言えば何となく意味は通じる。このため、日本語は各人が勝手にその場限りの擬音語を作ることについて寛容であり、マンガの背景として手書きの文字で書き込まれる(しばしば即席の)擬音語や擬態語も、日本語の創作活動として自然なものである。
英語の場合には、どこまで許されるのだろうか? あるいは、日本のマンガが英語圏に輸出された結果として、英語における擬音語や擬態語の範囲が変わることがあるのだろうか? ちょっと興味深い話だと思う。
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