« 努力家を天才と呼ぶのは侮辱である | トップページ | 先月の TOEIC は散々な結果だった »

2004.08.20

基本動詞と動作名詞の組み合わせ

どこの国の言葉でもそうだが、会話や文章の中にでてくるある単語と別の単語の組み合わせについて注目してみると、使用頻度の高い特定のパターンがあることがわかる。例えば、日本語なら「食事する」か「食事をとる」という組み合わせは非常に一般的であるのに対し、文法的には正しくても「食事をえる」とか「食事をもつ」とは、普通は言わない。言うとすれば、何か特別な場面だろう。

一方、英語では "have a lunch" が普通で、日本語からの直訳で "take a lunch" というと、少し変である。数ヶ月前にデイリーヨミウリで読んだ日本語と英語に関する解説のコラムに、「生徒がそう言ってもいちいち訂正はしないけど、お弁当をどこかに持って行くみたいな感じがする」と、ネイティブの英語教師が書いていた。日本語の「とる」と「もつ」が担当する意味の範囲と、英語の take と have の範囲はかなり違っているらしい。「とる」という意味で have が使われる例は珍しくない。

日本語には「する」という万能の動詞がある。たいていの名詞の後に「する」をつけることができ、全体として「その名詞に関連する動作をする」という意味になる。英語の do は「する」ほど万能ではないが、同様な機能を持っていて、例えば do the dishes は「皿を洗う」という意味になる。(残念なことに、「dish には料理という意味もあるから、do the dishes は食事するという意味だろうか」と推理しても、それは違う。この種の組み合わせには熟語的なものもあるので、やっぱり辞書を引かなければならない。)

英語の do は日本語の「する」ほど万能ではないが、そのかわりなのか、have や give は、日本語の「もつ」や「やる」よりも適用範囲がかなり広い。例えば、have は「所有する」という意味よりももっと広く、「とる」という意味にも、何かを経験している場合やある状態にいる場合にも使われる。また give は、たとえ受け取る相手がいなくても自分から何かを出すときに使われる。自分ひとりしかいなくて悲鳴を聞きとる人がいなくても、give a cry と言う。

このように、似たような意味ではあっても、日本語と英語の動詞が受け持つ意味の範囲は完全には一致していないが、いずれにせよ、「動詞+名詞」という定型の組み合わせでひとつの動作を示すという点においては、日本語も英語も同じである。

そして、日本語の「とる」「やる」「する」「もつ」や、英語の take, give, do, have などは、いずれも具体的にどういう行動をとるかという点については「意味が薄い」動詞である。「食べる」や eat なら目的語なしでもやることは明らかだが、「とる」の場合、目的語が「食事を」か「休息を」かでは、実際にやることが全く違う。同じことは "have" a lunch と "have" a rest でも言える。動詞であるにもかかわらず、ひとこと「とる」とか "have" とだけ言ったのでは、どんな行動をとるのかわからない。実際の行動内容は、「食事」とか "rest" という名詞が受け持っている。

基本動詞という呼び名に厳密な定義はなさそうだが、「いろいろな場面で広く使われる、単純で一般的な動作を意味する動詞」だと考えてよいと思う。広い用途で使われきたせいで、動詞としての意味が薄まっているのか、それとも逆に、意味が薄まったから幅広く使われているのかは分からないが、とにかく、「基本動詞」と呼ばれるものは、しばしば、名詞を動詞として使うための文法的な記号の役割をはたしている。

『日本人の英語』か、それとも『続・日本人の英語』のどちらだったかは忘れたが、マークピーターセンは、動詞として get だけを使って組み立てた英文の例を挙げていた。同様に日本語でも、動詞には「する」だけを使うように限定し、「名詞+する」という表現のみの文章を組み立てることは可能だし、多くの場合そんなに不自然でもない。

書店に行って英語の入門書のコーナーをみると、「わずか数語の基本動詞でこんなにたくさん表現できる」というような呼び込みをしている本がいくつも見つかる。確かにその宣伝はウソではない。基本動詞は、動詞としての具体的な意味をかなり失っていて、その後に続く名詞のほうが実際の行動を示している。したがって、名詞の数さえ増やせば、動詞の部分は have や give だけしか使っていなくてもたいていのことが言えるというわけである。

そして、この種の本には、名詞の数だけおびただしい例文がつき、読者はアマゾンの書評欄あたりに、「たくさん表現できるけど、たくさん丸暗記しなければならないじゃないか!」と、ため息を書き込むことになる。

いくら動詞の種類が少なくても、名詞のほうは必要な数だけ覚えなければならないのだから、「わずか数語の基本動詞で」という宣伝は、本当は「わずか数語の基本動詞と、たくさんの名詞を覚えれば」ということであり、ちょっと誇大広告である。世の中そんなに甘くないのだ。しかし、『基本動詞+名詞』という組み合わせは、英語の表現の基礎となるものなので、知っておいて損はない。

最近の学習用英和辞典や学習用英英辞典は、この種の基本動詞の使用方法を丁寧に説明している。例えば、have の意味のひとつとして、『「主語 + have + 目的語」の形で目的語の部分に「a + 動詞から派生した名詞」を置き、have そのものは時制・人称・数といった文法的意味をになうだけで、実質的意味は目的語にある』というような説明がジーニアス英和大辞典には載っていた。また、コウビルド英英辞典では、わざわざこのために、have の他の意味とは独立した見出し語として have (USED WITH NOUNS DESCRIBING ACTINS) という項を用意しているほどである。

私自身も含め、たいていの人は「中学や高校の時に、have や get なんて習ってしまった」と、思っているので、社会に出て英語を勉強しなおす必要を感じたときでさえも、今さらこの種の基本動詞について辞書を調べてみようなどとはしないだろうと思う。そして、「have や get がからんだ熟語はたくさんあるなぁ 覚えるのが大変だ」と考えてしまう。なるほど確かに熟語的な部分もある。しかし、熟語として丸暗記しなければならない特殊な組み合わせというよりは、一般的な英語のパターンのひとつとして『基本動詞+動作を示す名詞』という形があるのだと考えたほうがよさそうだ。

辞書も進歩している。最近の辞書は、単に単語の意味を載せているだけではなく、その単語を使っている文章がどういう構造をしていて、文中の他の単語とどういう関係にあるのかについても、ある程度説明している。コロケーション辞典と呼ばれている、単語と単語のよくある組み合わせについてまとめた辞書もある。昔習った、とっくに知っているはずの易しい単語についても、油断せず、使い方を一度調べなおしてみるといい。

« 努力家を天才と呼ぶのは侮辱である | トップページ | 先月の TOEIC は散々な結果だった »

英語」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 基本動詞と動作名詞の組み合わせ:

« 努力家を天才と呼ぶのは侮辱である | トップページ | 先月の TOEIC は散々な結果だった »

2021年11月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        
無料ブログはココログ