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2004.07.16

どうしようもないことは、どうしようもない

図書館でトム・デマルコの『デッドライン』を借りて読んだ。ソフトウェア開発のプロジェクト管理にまつわるやっかいな問題を主人公がどのように解決するかを、物語形式にして紹介している本だ。アマゾンの書評欄にいろいろな読者の意見が載っている。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822280535/

この本のストーリーを通じて、著者は、プロジェクトが陥りがちな問題を予防したり解決したりするための基本的な手法をいくつか紹介しているのだが、しかし著者は、対処不可能でただ祈るしかない問題が存在することも明記している。

この本の中では、そういう絶望的な問題を無理やり解決するため、「スパイが、問題の原因となっている人物に病原菌を一服盛って、外国の病院に送り込んでしまう」という実にあっぱれな解決策を使っている。まあストーリーの進行上仕方あるまい。そうしなければ、この作品のラストは「愚かな政治家のせいで、プロジェクトは完全に破綻しみんな不幸になってしまった」という結末にしかなりえないのだから。

とはいうものの、現実の世界ではこういう手法は使えない。この点について、著者は、第21章のまとめにこんなことを書いている。

病んだ政治
●病んだ政治を下から解決することはできない。むだな努力で時間を浪費したり、自分の立場を危険にさらす必要はない。
●問題が自然に解決するか、行動するチャンスが来るのを待つしかない場合もある。
●奇跡が起こることもある(だが、あてにしてはいけない)。

著者はこの本の全編を通じて、そして他の著作(たとえば『ピープルウェア』)でも、「苦しくても問題は解決できる。前向きに、明るく仕事をしていこうよ」と読者に訴えかけている。しかし、世の中にはどうしようもないことが存在することも事実であり、どうしようもないことについてはエネルギーを使うなと戒めてもいるのだ。全くその通りだと思う。どうしようもないことは、どうしようもないのだから、そんなことに関わってはいけない。

ただ、ひとつだけ問題が残る。自分が直面している仕事上の課題が、解決不可能な『病んだ政治』に起因するものであるかどうか、どうやれば分かるのだろう? この本では、話の途中に突然登場するひとりの邪悪な政治家が事態を悪化させたので、主人公も読者も、これが毒でも盛らない限り解決不可能な『病んだ政治』の問題であることは即座に理解できる。

しかし、多くのプロジェクトの場合、病んだ政治のせいでそれが破綻したと分かるのは破綻後である。そもそも政治はひとりでやるものではなく、複数の人間の思惑と利害関係が絡むからこそ政治というものが登場するのだ。多数の関係者が自己欺瞞に陥っているとき、病んだ政治の問題は個人の欲望ではなくプロジェクト全体の技術や営業や経費の問題にすり替えられていて、参加している当事者たちには何が本当の問題なのか理解できない。また、理解することを望まない。そして、どうしようもないことに対する存在しない解決策を求めてデスマーチが続くことになる。

どうしようもない問題にエネルギーを浪費してしまうことになる。と、いうことさえもが、どうしようもないことなのかも知れない。

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