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2004.07.18

その本の読者は誰なのか?

少し前に、このページで Basic English について取り上げた。語彙と文法を大幅に制限しているので、Basic English の表現力には当然ながら限界があるのだが、しかし、「かなり厳しい制限をもうけているにもかかわらず、その制限からは思いもよらないほど多彩な表現が可能である」ということ、すなわち、「限界はあるけれども、実用品として使うことができるし、英語の学習にも大きな効果がある」ということが、Basic English の興味深いところなのである。

さて、日本で出版されている Basic English に関する本をいくつか調べていて、ちょっと嫌な雰囲気を味わうことがあった。Basic English の限界を正当化しようとしている、奇妙に言い訳がましい本があったからである。それは無理だと思う。

言い訳を書く著者の気持ちは想像できる。同業の英語学者や英語教師から、さんざん「こんなものはダメだ」と言いがかりをつけられてきたので、防衛しないわけにはいかないのであろう。完全な言いがかりではなく、的を射た、したがって何か反論しないわけにはいかない批判も少なからずあったろう。

言い訳の理由はわかるとして、では、Basic English の本で私が見かけたそれは、いったい「誰」に向けたものなのだろうか? 英語の勉強を始めようと思って、その本を手に取った読者に向けたメッセージなのか? それなら全く問題はない。新しい概念の勉強は不安に満ちたことだから、著者は読者の不安を取り除くべきであり、言い訳はけっして悪くない。むしろ「こんなに制限しても、実は大丈夫なんですよ。なぜなら・・・」という説明は、学習者向けに必ずやっておくべきことだと思う。

しかし、私が読んだある本の中には、一般人向けの英語入門書という形式で出版されているにもかかわらず、「英語を学ぼうとしている初心者」ではなく「英語を教えたり研究したりしている同業者」を意識して言い訳をしているのではないか? と感じさせるものがあった。

これはよくない。読者(学習者)にとっては、何の意味もない。本を書く人は、『自分の顧客は誰なのか』を常に意識して欲しい。それが英語学習者向けの本であるなら、その読者は、例えば、日常の仕事の中でとにかく英文メールを書き海外の同僚や顧客と話をつけなければならないから、英語を勉強している人たちなのだ。学者ではない。買った本が自分の勉強の役に立つなら、読者は喜んでその本を歓迎し高く評価する。学者同士の議論なんてどうでもいい。

誰が自分の顧客なのかを見失うと、商売は失敗する。物書きであっても同じである。

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