Jane Eyre
少し前に、「ジェーン・オースティンの作品は、誰も死なないのがいい。安心して読める」と書いたが、もちろん19世紀の女流作家の中にも、厳しい社会情勢をえぐり出すような作品は存在する。
例えば、ジェーン・オースティン(1775-1817)から数十年後に活躍した、シャーロット・ブロンテ(1816-1855)の1847年の作品、『ジェーン・エア』は、かなりすごい内容で、こういう本が当時の世の中でよく出版できたなと思えるほどである。いやいや、当時の悲惨な社会情勢があればこそ、こういう作品が出来上がったのだとも言えるのだが、真実を突いているがゆえに著者はかなり敵を作ったのではないだろうかと思った。
(なお、上記のリンクは、本の朗読を録音したカセットテープ版の製品へのリンクである。原作の著作権はとうに切れているので、通常の書籍は複数の出版社から低価格で発売されている。さらに、インターネット上で探すとテキストファイルもみつかる。)
推理小説のようなどんでん返しもあるので、この作品の具体的なストーリーについてはあまり触れたくない。悲惨な幼年時代を送った孤児ジェーン・エアが主人公であり、彼女は、見かけの美しさではなく自らの知性と意志の強さによって自立する。この本は、彼女の波乱に富んだ人生と命がけの愛の物語である。恋人となる男性ロチェスターも、美男ではない。また、二人とも決して凡人ではない。
作品はジェーンの一人称で書かれている。作品の初めから第9章まではジェーンの生い立ちに関する記述であり、正直な話、私はこの部分については何度も読む気がしない。当時の寄宿学校の生活環境についての描写は、著者ブロンテ自身の実体験が含まれているらしい。著者が子供の頃に、著者の姉二人が死んでいる。当時の寄宿学校での生活がもたらす悪影響は、ときとして命に関わるものだったようだ。
ストーリーが大きく進展し始めるのは、ジェーンが自ら職を求め学校から旅立つ第10章からである。彼女が選んだ governess という仕事については、『ガヴァネス(女家庭教師)―ヴィクトリア時代の〈余った〉女たち』を読むと作品への理解が深まると思う。ただし、この本は、後半部でいろいろな小説の結末を詳細に種明かししている。『ジェーン・エア』についても、まるで推理小説の犯人を名指ししトリックを全部ばらしてしまうかのようなことをしているので、前半部だけを読むことをお勧めする。
『ジェーン・エア』の登場人物の性格はたいへんユニークである。作中でロチェスターはジェーンに始めた会った翌日に、「妖精に魔法をかけられたのかと思った」(When you came on me in Hay Lane last night, I thought unaccountably of fairy tales, and had half a mind to demand whether you had bewitched my horse: I am not sure yet.)というようなことを言う。似たようなセリフは後にも出てくる。
この「妖精」は、トールキン以降にイメージとして一般化した美しく長命な生き物たちではない。やせてちっぽけな、どちらかといえば醜い生き物のことであり、悪ではないにせよ、少なくとも美人という意味は全くない。もっとも、ロチェスターが彼女のことを妖精と呼ぶとき、彼は絶対にジェーンのことを悪く言っているわけではないのだが。
ロチェスターが芝居がかった大仰なセリフを吐き、それにジェーンがくそ真面目に返答するという様子は、作品中に何度かあり、読んでいておもしろい。最後には彼女も、you talk of my being a fairy, but I am sure, you are more like a brownie. などという。お似合いの二人である。
『ジェーン・エア』の和訳は、おそらくどこの図書館にも置いてあるはずだ。「ロマンチックな長台詞」が生理的に苦になるという人にはお勧めしないが、そうでないなら、単なる恋愛物語と違うスリリングなストーリーなので、読んでみると面白いかも知れない。
大きな図書館なら、英語の原書も置いてあると思う。私が住んでいる市の市立図書館で検索してみたところ、市内の図書館に、原書は7冊、翻訳はその倍以上あった。児童書の棚には、少女漫画化されたものもあった。
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